kstntk’s blog

既卒ニート女が深夜のテンションで書き散らしているブログ。

選ばなければ売り手市場

売り手市場で就職活動が楽になっていると外側からはよく言われるが、そんな気はしない。

企業も新卒生の確保に必死というが、それも中小企業が主であろう。

結局、人気企業はいつでも人気だし、いつでもたくさんの就活生が涙を呑む。


採用数が少ない上に新卒の募集を出している企業自体が少なく、なおかつ人気があるのは、エンタメ系と出版系ではなかろうか。

テレビ、音楽、映画なんかはいつだって人気が高い。


映画で思い出したが、過日に話題となった、とんねるず木梨憲武氏がラジオに出演した際の出来事はご存知だろうか。

今春に大学を卒業したものの、フリーターとなっているリスナーが「自身の才能がわからない」と投稿したことに対し、木梨氏が「(『いぬやしき』の)試写会にとりあえず来い」と招き、東宝サイドに紹介するという約束をその場で取り付けた出来事だ。


さて、SNSなどでは美談として語られているが、本当にそれは美談なのだろうか?


まず、当該リスナーは「興味があった」とは言ったものの、映画業界に対して情熱があるわけではない。あくまで、「才能の見つけ方」について尋ねたのである。

勿論、トライアンドエラーは重要であるが、そこまでの道筋も自分で模索すべきではないのだろうか。

スカウトを受けた場合はその限りでないにしろ、はっきりと「やりたい」と思うほどでなく「興味があった」という程度の状態でぽんと業界に放り込むのは早計ではないかと思う。


もうひとつは、斡旋先が「東宝」であるということだ。

先に述べたように、「東宝」に限ったことではないが、映画業界の新卒求人は少なく、激戦は免れない。

どれだけ映画に情熱を持ち、どれだけ主体的に映画に関わっていたとしても、それを直接アピールする機会さえ与えられない者も多くいる。

それは学歴であったり、提出書類の完成度であったりという部分が影響するのかもしれないが、その場合はいくら熱意があろうと、面接にすら招かれないのだ。


端的に言えば、ずっと憧れ続けても入社できず、涙を呑む就活生が多くいる企業だということだ。

万年人不足の中小企業とは違うのだ。


学歴、経歴、熱意。そのすべてが評価され、数段階の選考を経て、ようやく内定を勝ち取る。

それが、本来の新卒生が歩むルートである。

説明会や選考のたびに時間を作って足を運び、選考期間には緊張した時間を過ごし、選考の際にはプレッシャーと闘いながら担当者と相見える


そうした過程をすべてすっ飛ばして、苦労することなく急に担当者と話を繋いでもらえる。

その「コネ」が、果たして本当に彼のためになるのだろうか?


恐らく、彼は「自社制作作品の主演である木梨憲武の紹介」ということで、邪険に扱われることはないだろう。

「とりあえず働いてみて」という木梨氏の言葉通り、とりあえず採用され、どこかしらの部署に配属できることと思う。


しかし、入社後、彼はどんな目で見られるだろうか。

「コネ入社」のレッテルを貼られた彼が、厳しい選考をくぐり抜けた新卒生たちと同じラインに立てることはまずないだろう。


親心として放っておけなかったという気持ちはわからなくもない。

しかし、そう簡単に第三者が介入していい問題でもない。

ともすれば、人生そのものに関わる問題だからだ。

「とりあえず働いてみる」ことが大切なのはわかるが、どこで働くかも自分で決めてこそ、本当にやりたいことを見つける手がかりとなるのではないだろうか。


ネットでは「縁の力」「神対応」などと評価されているが、現在の就職活動を経験し、周りの就活生の様子も見聞きしてきた身としては、どんなに憧れても入社できなかった就活生がいる一方で、何の実績もないのに「コネ」で話をつけてもらえる就活浪人生がいるという状況は、あまりにもやるせないと感じてしまった。

また、彼の行く末についても心配だ。

不意に用意されたその道は、自分の才能ややりたいことと合致していないかもしれない。

だが、赤の他人に世話をしてもらった以上、そう易々と抜け出ることもできないだろう。

「とりあえず仕事できたからこれでいいや」

そんな風に、彼は思考停止して働くだけの人間になりはしないだろうか。

本当に、才能ややりたいことは見つけられるのだろうか。


就活は就活生の心を殺す。

かといって、安定と引き換えに自主性とリスクを奪われた就活生もまた、静かに心を殺されるのかもしれない。